株を貸すだけで金利がもらえる「貸株」とは?リスクと上手な活用法|mymo マイモ
物価の上昇や円安などの影響もあり資産運用に興味を持っている人が増えている印象があります。新NISA制度も後押ししており、NISA口座を通じて投資初心者の方が初めて株式や投資信託を購入するというケースも少なくないようです。…
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ふやす 内山 貴博
2024.6.6 06:00 更新 内山FP総合事務所株式会社 代表
内山 貴博
ファイナンシャル・プランナーCFP®・1級ファイナンシャル・プランニング技能士
ファイナンシャル・プランナーCFP®・1級ファイナンシャル・プランニング技能士
貸株とは文字通り株を貸し出すことです。一度購入した株式は証券口座で保管されることになります。都度、配当金や株主優待を受け取ることはできますが、売却するまでずっと保管したままということになります。
現在、株式など有価証券はペーパーレス化により、株券を手にすることはできないためイメージしづらいところがありますが、株券が発行されていた頃は、手元などで保管する人もいたのです。
その株券をそのまま保有しているだけではなく、「しばらくの間、貸してあげるよ。その分、金利をちょうだい」と言うのが貸株となります。貸す相手は口座を開設している証券会社になります。証券会社に株を貸すことで金利をもらうことができます。
証券会社はその株式を、信用取引で別の人に貸すことができます。よって、貸株サービスを通じて投資家から株を貸してもらい、その株券を信用取引をしている投資家に貸し出すことで有効活用が可能になっているのです。
「貸株を貸す?」とさらに分かりにくくなったかもしれません。もともと松井証券が「預株サービス」をはじめたのが最初であると言われています。現在は楽天証券やSBI証券はじめ、特に若い人に人気のネット証券各社は積極的に貸株サービスを展開しています。
ここまでを整理すると以下のようになります。
・購入した株式は証券口座で管理されている ・株式を保有している期間、証券会社に貸し出すことで金利がもらえる ・証券会社は信用取引で借りた株を活用することができる
なぜ金利がもらえるのか?証券会社は借りた株をどうしているのか?いろんな疑問があるかもしれませんが、そのためにはまず理解しておきたい「信用取引」について解説します。
信用取引とは?
【画像出典元】「stock.adobe.com/Golden Sikorka」 保有している株を証券会社に貸し出すことで金利がもらえることを紹介しましたが、「そんなうまい話があるのか?」とまだ疑心暗鬼の人もいるでしょう。そのためには「信用取引」について理解しておく必要があります。
信用取引とは通常の株の売買とは違い、投資家が証券会社からお金や株を借りて、その分の保証金を預けて行う取引です。例えば100万円のA株を買いたい場合、通常であれば100万円の資金が必要です。ただし、信用取引はお金を全額、証券会社から借りてA株を買うことができます。100万円の30%にあたる30万円を保証金として差し入れる必要がありますが、保証金30万円で100万円、実質3.3倍もの取引ができるため、ハイリスク・ハイリターンの取引となります。
一方、お金ではなくA株を借りて売却することもできます。「信用売り」または「空売り」とも言われます。証券会社からA株を借りてまず売却します。その時の値段が100万円だったとします。その後、80万円まで値下がりした場合、そこで買い戻し、証券会社に借りたA株を返します。
一旦、証券会社から借りた株を売却したことで100万円を手にして、その後、その株を買い戻すために必要だったのは80万円であるため、差額の20万円が手元に残ります。これが利益となります。
信用売りは値段が下がることにより利益が出る取引です。この場合も保証金が必要となりますが、やはり保証金に対して大きな取引ができるため短期間で利益や損失が出やすいです。
こういった信用取引は一定の保証金を預けることができる人や投資の知識や経験がある人が対象となります。この信用取引は証券会社からすると大きな取引を短期的に何度も行う投資家がいるため、その分、手数料を受け取ることができ大きな収益へとつながっていきます。よって、信用取引を希望する投資家に「お金を貸す」「株を貸す」体制を整えておくことが重要なのです。
そこで問題なのが、「株を貸す」ことです。信用取引で空売りを希望している投資家に株を貸すためには証券会社が在庫としてその株を保有していなければなりません。どの株でも簡単に貸せるというわけではありません。様々な銘柄を有しておくことで、信用取引を希望する投資家に対応できるのです。よって、信用取引で空売りを希望している投資家に株を貸すために、「貸株サービス」を展開しているのです。
信用取引をしない一般の投資家の人も含め、株券を保有している人から株券を貸してもらうことで有効活用できるというのはこういうことです。収益に貢献するため、株を貸してくれた人に金利を払えるのです。
貸株のメリットは?
貸株を行う最大のメリットは金利を受け取れることです。概ね0.1~0.2%程度の金利を受け取ることができます。株式でリスクを取りリターンを狙いながら銀行預金のように確実にコツコツと金利をもらえるのは魅力的ですね。
貸株のデメリットは?
貸株は良いことばかりではありません。デメリットもあります。
信用リスクを負う
まずは「信用リスク」です。実際に手元に株券がなく、目に見えないため分かりにくいのですが、自分自身が保有しているものを証券会社に貸し出し、それをまた別の投資家がその株券を借りているのです。証券会社や信用取引をしている別の投資家、それぞれの信用リスクを負うことになります。何かのトラブル等が生じた場合、株を貸している側にも影響が及ぶ可能性があります。例えば、売りたいと思ったタイミングに売却できないということも考えられます。
投資者保護基金の補償対象外
通常、投資家の株式は取引先である証券会社の財産とは分別で管理されるのが原則ですが、貸株サービスは証券会社に貸し出すため、分別管理されず、その結果、投資者保護基金の補償の対象からも外れます。万が一証券会社が破綻した場合も悪影響が出る可能性があります。
配当控除を受けられない
税金上もデメリットになる場合があります。通常の配当は配当所得扱いですが、貸株中は「配当金相当額」ということで金額に変わりはありませんが、厳密には「配当を受け取ったこと」にはならず「配当金に相当する額を証券会社からもらった」ということになり課税区分が雑所得となります。配当所得であれば確定申告をすることで配当控除という税額控除を受けることができますが、雑所得の場合は配当控除を受けることができません。
株主優待が受けられない
配当同様、株主優待も受け取ることができません。そこで、証券会社によっては配当や株主優待時期は貸株を解除するといったサービスを展開しているところが多いです。よって通常は貸株として金利を稼ぎ、配当や優待の権利が確定する時期は元に戻す。ということが可能です。
証券会社によって対応はまちまちですが、あらかじめ「配当・優待優先」なのか「金利優先」なのか選ぶことができるのが一般的です。株主優待目当てで投資をしたにも関わらず、その株を貸株として差し出していて株主優待がもらえないということにならないように注意しましょう。
金利の高い対象株の注意点
【画像出典元】「stock.adobe.com/Nuthawut」 貸株サービスの金利をみていますと5%や10%といった銘柄もあります。通常の0.1%の銘柄と何が違うのでしょうか?
つい、これだけの高い金利がもらえるのであれば当該銘柄を購入して証券会社に貸し出したいと思ってしまいますが、そこは少し冷静になってください。
そもそも、なぜ貸株をするのかというと、証券会社が信用取引で信用売り、空売りをする人たちに貸し出すためでした。信用売りをする人は「その株価が下がってほしい」、「悪いニュースが多く、将来下がるかもしれない」こんなことを考えているのです。
つまり貸株サービスの金利が高い株は信用売りで人気の株ということになります。値動きが荒く、下がりやすい株だからこそ、貸株金利が高いという関係になっているのです。もちろん、必ずそうなるというわけではありませんが、その点を十分に踏まえ、取引をしてください。
また全ての株式が貸株サービスを利用できるわけではありません。対象外となっている銘柄もあるため、取引先の証券会社のホームページ等で事前に確認しておきましょう。
貸株の始め方・必要な手続き
全ての証券会社が貸株サービスに対応しているのではなく、インターネットの証券会社を中心に一部の証券会社が行っています。よって、まずは貸株サービスを実施している証券会社に口座を開設する必要があります。
その後、貸株サービスの利用を申し込み、申し込みが完了すると、銘柄ごとに貸株を希望するかどうか選ぶことができます。先に説明した注意点などをしっかりと把握した上で始めてください。なお、一般的に貸株サービスの利用は無料です。
まとめ
・貸株サービスは証券会社に株を貸すことで金利がもらえる ・証券会社は信用取引の投資家に株を貸すために株式の在庫を確保しておきたい ・権利確定日に要注意。配当や株主優待の取り扱いが変わる
今回は、「貸株とは?」というテーマを解説しました。証券会社の破綻リスク、信用リスクなどはあるものの、基本的には投資家にとってメリットの大きい制度だと思います。特に長期保有で投資をする場合、わずかな違いが大きな違いとなります。
筆者も貸株サービスを利用していますが、毎月金利が証券口座に入金されます。そしてその入金された金利は積立投資などの資金に回っていますので、効率よく資産運用ができていると感じています。
ただし、注意点でも紹介したように貸株で金利が高いものは注意が必要です。あくまで貸株サービスによる金利はおまけのような位置づけです。その株式そのものが投資に値するかどうか、自分の投資の価値観に合致するかどうかという本質的なところを優先するようにしてください。
※資産運用や投資に関する見解は、執筆者の個人的見解です。投資に関する最終決定は、お客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。
貸株に関するQ&A
Q:株初心者です。NISA口座で取引をしていますがNISA口座内の株式も貸株サービスを利用できるのでしょうか?
A:NISA口座内の株式は制度上、貸株サービスを利用することはできません。一般口座、特定口座預かりの株式が対象となります。
Q:株を貸している間に売却をすることはできるのでしょうか?
A:はい、売却可能です。通常の株式と同様の取引で売却することができます。
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